夜な夜な黒魔術屋

華やかなことは書けない

『もののあはれは彩の頃。』感想

 京都に馴染んできた今頃、約三年ぶりに本作を収納ケースから掘り起こした。冬茜トム氏の作品は本作とアメグレしかプレイしていないのでもとよりこういう作風だったかは定かではないが、ずばりと要点を突くような会話文に、三人称の語り手がどこまでも冷静な口調で淡々と補足説明を加えるようなテキスト構成は大変読み心地が良く、やはり好感が持てるなと改めて思うのであった。音楽は概ね和風で、のびやかさを基調としつつ、どこか微かに香る魅惑的な哀愁を漂わせ、緩急のある変化に富むため、テキストの淡泊さと相まって、秋の京の怪奇なる美景を彷彿とさせる相乗効果をもたらしてくれる。この時点でもかなりクオリティーの高い作品だと言えるが、コンセプトである双六ゲームの部分に関しても、目まぐるしい局面や形勢の変化と緊張感にあふれた駆け引きに大いに見どころがあり、どの点を取り上げても文句なしの傑作。すごろくの遊戯盤に落とし込まれた見慣れた景色の別様な風情を、一京都民として楽しめるなんて、いやはや贅沢にもほどがある。

 以下はネタバレありの長文感想。

 

世界観・キャラ設定の一部がかなり強引であるものの、それらすら色褪せさせるほど鮮烈な印象を残す双六頭脳戦

 冬茜トム氏といえば、これでもかというほど都合のいい物語をただ粛々と綴るイメージがある。裏を返せば、ご都合主義であるにもかかわらず依然として高評価を得て数多の読み手を喜ばせることができた本作は、氏の実力を物語っているとも言えよう。機械仕掛けの神の助けを借りる展開を悉く最後のルートに集中させ、そのボリュームを削ることで、強引な設定への読み手の嫌悪感を最小限に抑えつつ、氏は心のまにまにストーリーを語ることができたと言えよう。永沈エンドを除けば、どのルートも苦戦の末に主人公陣営があがる結末だが、第弐面の地図が異なるのみならず、対戦ルール、手を組む味方、主立ったライバルおよび勝ち方まで工夫されており、かなり丁寧に作られている印象を受ける。

西院(スタンダード)

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※嵐山(レア)

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西院(レア)

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  西院(スタンダード)では幼馴染四人組で鹿野に立ち向かい、嵐山では琥珀と手を組み黎を打ち負かし、西院(レア)ではクレアと協力しカラスを撃破すると、参加者全員が一回ずつ活躍する無駄のないシナリオ構成となっている。また、ヒロイン四人のうち唯一走馬灯世界で主人公と結ばれなかった京楓だけはどのルートにおいても最後まで生き残った。負けヒロインはゲームには勝つ(?)。

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こんなこと言われたら余計に意識しちゃうじゃん、かわいいやつめ

 九人縁陣の結成を目指すも、サイコロの出目一つであっけなく砕け散る理想と現実の齟齬に苦悩する四人の姿を描く西院(スタンダード)ルート、三人称ナレーションを最大限に活かし、ハラハラする裏切り者探しの心理戦の成り行きを各キャラ視点で追い、ギリギリまで選択肢を絞りながら最後まで答えを隠し通す嵐山ルートーー前者は全員でのあがりを、後者はみさきの自己犠牲により獅子全員でのあがりを可能とするルールであるにも関わらず、非協力的なライバルと不都合な展開によって最善の解答から遠のいていく。全員が協力すれば誰もが得するが一人一人のプレイヤーにとって裏切ることが最適解となる、そんな「囚人のジレンマ」要素が、運と戦術が問われるこの双六頭脳戦をより一層面白いものにした。対照的にルール上複数プレイヤーでの同時あがりが困難極まりない西院(レア)ルートでは、カラスのトリッキーな動きによって予想の斜め上を行く展開が次々と訪れ、想像を裏切られるスリルの快感が堪らない。また、どのルートにおいても、肝心な逆転も双六のルールに則った無理のない手法で行われており、なるほどと頷ける。中でも絶望的な形勢からの琥珀の戒を利用した一発逆転が中々しびれたものだ。

※おまけ

 話が逸れるが、嵐山ルートでのみさきの言動について諸君はどう考えているのだろうか。暁と琥珀を救いたくば、己の正体を告げればいいという一目瞭然の事実に、頭の切れたみさきが気づかないわけがないだろうと、一度は思ったことがないだろうか。そもそもルールそのものが幾らでも解釈のしようがある曖昧なものなので、黙って自死する行為はむしろ二人を危険に晒すことになりかねないのではないか。それに、自身以外の全員を救出したかったにしても、あらかじめ暁と琥珀に自分の正体を知らせておくに越したことはないはずだ。そう考えると、確かにみさきの言動に不自然な部分があると言わざるを得ない。

 しかし、よくよく吟味すれば、そこまで大した矛盾でもないような気がしてくる。まず考えられるのは、カミングアウトのタイミングがなかった説。自死する前にカミングアウトすると、暁と琥珀に何かしらの形で自死を妨害されることが考えられるため、おそらく彼女は息絶える直前のタイミングを狙っていたが、とても遺言を残せそうな死に方ではないのが彼女の想定外だったのかもしれない。次に、カミングアウトのことを考える前に食われた説も候補に挙げられる。クナドは「念じた人が食われる」と説明しているが、どのタイミングで食われるかまでは教えてくれなかった。決心がつくや否や成立する縁陣のように、心の中で念じたとたん処刑されるとしたら、自己犠牲の決意を固めた瞬間に(カミングアウトを考える猶予すら与えられていない)みさきが退場してしまう。

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そして自分の中で最も有力なのは、非協力的なプレイヤーの存在を危惧した説。確かに獅子全員でのあがりを目指すならば、普通はカミングアウトした方がいいのかもしれない。しかし、もし早い巡目に合縁の持ち主であるクレアを含む複数のプレイヤーと同じマスに止まってしまい、その中に非協力的なプレイヤーが存在すると、虫の正体を読まれ先を越される危険があるとも考えられるだろう。だからみさきは獅子全員でのあがりを願いつつも、最悪暁と琥珀だけが勝ち抜くコースを用意すべく、カミングアウトしなかったのだ。これが最善の一手かどうかは別として、いや、恐らく本人もリスクを承知したうえでの選択だろうが、良くも悪くもみさきらしい。

 実際の事情はどうあれ、みさきの行動が最善でないにせよそこまで不可解ではないという解釈が可能であろう。 

 

主たるゲームの駆け引きに、魅力的なキャラクターと程よい塩梅の恋愛要素がスパイスを効かせる

 ヒロイン四人とも可愛くて個性的でありながら作為を感じない性格なので好感が持てる。縁をテーマにしただけに、主人公のことをちゃんと見ていることがわかるし、これは惚れても仕方ないなと頷ける。恋愛に非常に消極的な人間だけど、久々にエロゲの主人公がうらやましい。こんなかわいい娘四人を順位づけするのはとても心苦しいが、強いて言うなら自分の中では「京楓みさきクレア琥珀」といったところだろうか。女性サブキャラの中では、鹿野縁が頭一つ抜けている。貧弱な体に釣り合わない嗜虐的で狂気に満ちた顔は今作の一つの見どころでもあり、セリフに緩急をつけたり、声が大きくなったり小っちゃくなったりすると、おそらく本作で一番きつい演出を強いられるキャラだろうに、声優さんが完璧に乗りこなせているのは本当にお見事の一言。

 そして男性陣も優秀。まずは主人公、彼の良さはみさきの告白に尽きるので、引用させてもらう。

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暁の「ラッキー」は自分と仲間に言い聞かせる一種の精神安定剤なので、そんな健気な彼がとても好きだ。次はカラス。関西弁と性格の悪さとが相まって色々と濃いキャラであった。九人のうち七人も京都出身なのにカラス一人しか関西弁を喋らないのはどう考えてもおかしいだろ…というツッコミは置いといて、他のどのキャラクターよりも人間らしい複雑な一面を持ち合わせているカラスはいい意味で自分の予想を裏切ってくれた。欲を言えば、あんな無念な形で退場させるのではなく、利益のために共通の敵である物部に立ち向かって欲しかった。脇役の大誠に関しても、最終的に重要なピースを埋めてくれるのみならず、それぞれに山場まで用意されているし、ここまで無駄のないキャラクター配置は中々凄い。

 また、全編を通して恋愛要素が濃すぎず薄すぎず塩梅が程よいと感じる。特筆すべきは西院(レア)ルート。やや長い分人によって中だるみもするだろうと思いきや、毎回のごとく完璧なタイミングでクレアといい雰囲気になるのは流石にうまい。

 

まとめ

  かわいい、面白い、だれない、良作三拍子に加えて絵も音楽も素敵。あと細かいけど怪談、伝説、和歌等々いかにも京都らしい要素がたくさん詰め込まれている作りだが、いちいち書くと長ったらしいので割愛。一度京都に足を運んで頂けたら、本作をより楽しめるかもしれない。ご都合主義によっぽど厳しい人でなければ、高評価は必至。

 

評価

(あくまで個人的な好みを点数化したもので、良し悪しの評価ではない)

・シナリオ&テキスト(28/35点):

   *西院(スタンダード)ルール:8.75/10点

   *嵐山ルート:8.75/10点

   *西院(レア)ルート:8.75/10点

   *龍脈(トゥルー)ルート:1.75/5点

・キャラ(30/35点):

   *東雲 暁(主人公):3.75/4点

   *野々宮 京楓:4/4点

   *鬼無水 みさき:4/4点

   *クレア・コートニー・クレア:3.75/4点

   *琥珀:3.5/4点

   *首藤 大誠:2.25/3点

   *鹿乃 縁:2.5/3点

   *カラス:3/3点

   *榊 黎:2.25/3点

   *クナド:0.75/1.5点

   *物部 総司:0.25/1.5点

・音楽&ボイス:14/15点

・絵&演出:14/15点

・合計:86/100点