夜な夜な黒魔術屋

GENERALS GATHERED IN THEIR MASSES, JUST LIKE WITCHES AT BLACK MASSES

『もののあはれは彩の頃。』感想

 冬茜トム氏の作品は『アメグレ』に次ぎ、本作がプレイした二作目となる。元より氏のテキストがこういう作風だったかは定かではないが、ずばりと要点を突く簡潔な会話文に、三人称の語り手が淡々と補足説明を加えるようなテキストは大変読み心地が良く、好感が持てる。のびやかさを基調としつつ、どこか魅惑的な哀愁を漂わせ、緩急のある変化に富む和風のBGMが、テキストの淡泊さと相まって、秋の京の怪奇なる美景を彷彿とさせる相乗効果をもたらしてくれる。この時点でもかなりクオリティーの高い作品だと言えるが、双六ゲームそのものの目まぐるしい形勢の変化と緊張感にあふれた駆け引きも頗る面白く、どの点を取り上げても文句なしの傑作だと言える。遊戯盤に落とし込まれた京の風情を存分に味わうと良い。

 以下はネタバレありの長文感想。

 

世界観・キャラ設定の一部がかなり強引であるものの、それらすら色褪せさせるほど鮮烈な印象を残す双六頭脳戦

 たかが二作しかプレイ経験がないので、冬茜トム氏の作風をどうのこうの語るつもりはないが、印象としては、中盤に向けた緻密な展開と終盤の疾走感が強い。ご都合主義と言われることもあるだろうが、裏を返せば、ご都合主義の展開をかましているにもかかわらず依然として数多のユーザーを唸らせることができた本作は、氏の実力を物語っているとも言えよう。機械仕掛けの神の助けを借りる展開を悉く最後のルートに集中させ、そのボリュームを削ることで、強引な設定への読み手の嫌悪感を最小限に抑えつつ、氏は思うがままに伏線をまき散らし、物語を盛り上げることができたと言えよう。永沈エンドを除けば、どのルートも苦戦の末に主人公陣営があがる結末だが、第弐面の地図が異なるのみならず、対戦ルール、手を組む味方、主立ったライバルおよび勝ち方まで工夫されており、かなり丁寧に作られている印象を受ける。

 なんのこっちゃってならないように、一応各マップに名前をつけとく。

西院(スタンダード)

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※嵐山(レア)

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西院(レア)

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  西院(スタンダード)では幼馴染四人組で鹿野に立ち向かい、嵐山では琥珀と手を組み黎を打ち負かし、西院(レア)ではクレアと協力しカラスを撃破すると、参加者全員が一回ずつ活躍する無駄のないシナリオ構成となっている。また、ヒロイン四人のうち唯一走馬灯世界で主人公と結ばれることがなかった京楓だけは、どのルートにおいても最後まで生き残ることができた。負けヒロインはゲームには勝つ。

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こんなこと言われたら余計に意識しちゃうじゃん、かわいいやつめ

 九人縁陣の結成を目指すも、サイコロの出目一つであっけなく砕け散る理想と現実の齟齬に苦悩する四人の姿を描く西院(スタンダード)ルート、三人称ナレーションを最大限に活かし、ハラハラする裏切り者探しの心理戦の成り行きを各キャラ視点で追い、ギリギリまで選択肢を絞りながら最後まで答えを隠し通す嵐山ルートーー全員が協力すれば誰もが得するが一人一人のプレイヤーにとって裏切ることが最適解となる、そんなジレンマ要素が、運と戦術が問われるこの双六ゲームをより一層面白いものにした。対照的に、ルール上複数プレイヤーでの同時あがりが困難極まりない西院(レア)ルートでは、カラスのトリッキーな動きによって予想の斜め上を行く展開が次々と訪れ、想像を裏切られるスリルの快感が堪らない。

 同じく双六ゲームでも、見せ方と面白さのベクトルが異なり、よく考えられていると言える。また、どのルートにおいても、肝心な逆転も双六のルールに則った無理のない手法で行われており、なるほどなと頷ける。中でも絶望的な形勢からの琥珀の戒を利用した一発逆転が中々しびれたものだ。

 

※おまけ

 話が逸れるが、嵐山ルートでのみさきの言動について諸君はどう考えているのだろうか。暁と琥珀を救いたくば、己の正体を告げればいいという一目瞭然の事実に、頭の切れたみさきが気づかないわけがないだろうと、一度は思ったことがないだろうか。そう考えると、確かにみさきの言動に不自然な部分があると言わざるを得ない。

 しかし、よく吟味すれば、そこまで大した矛盾でもないような気もする。まず考えられるのは、カミングアウトのタイミングがなかった説。自死する前にカミングアウトすると、暁と琥珀に何かしらの形で自死を妨害されることが考えられるため、みさきは息絶える直前のタイミングを狙っていたが、とても遺言を残せそうな死に方ではないのが彼女の想定外だったのかもしれない。また、処刑のタイミングが予想外だった説も候補に挙げられる。クナドは「念じた人が食われる」と説明しているが、どのタイミングで処刑が行われるかは明言していない。決心がつくや否や成立する縁陣のように、心の中で念じたとたん処刑が行われるとしたら、自己犠牲の決意を固めた瞬間に(カミングアウトを考える猶予すら与えられていない)みさきが退場してしまう。

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そして自分の中で最も有力なのは、非協力的なプレイヤーの存在を危惧した説。確かに獅子全員でのあがりを目指すならば、普通はカミングアウトした方がいいのかもしれない。しかし、もし早い巡目に合縁の持ち主であるクレアを含む複数のプレイヤーと同じマスに止まってしまい、その中に非協力的なプレイヤーが存在すると、虫の正体を読まれ先を越される危険があるとも考えられるだろう。だからみさきは獅子全員でのあがりを願いつつも、最悪暁と琥珀だけが勝ち抜くコースを用意すべく、カミングアウトしなかったのだ。これが最善の一手かどうかは別として、まあ良くも悪くもみさきらしい。

 実際の事情はどうあれ、みさきの行動が最善でないにせよそこまで不可解ではないという解釈は可能であろう。 マジでただの余談だけど。

 

主たるゲームの駆け引きに、魅力的なキャラクターと程よい塩梅の恋愛要素がスパイスを効かせる

 ヒロイン四人とも可愛くて個性的でありながら、いわゆる作為的な萌え(別に好きだけど)を感じない性格なので、非常に好感が持てる。縁をテーマにしただけに、主人公のことをちゃんと見ていることがわかるし、これは惚れても仕方ないなと頷ける。恋愛に消極的な人間だけど、久々にエロゲの主人公がうらやましい。こんな素敵な娘四人を比べるのはとても心苦しいが、やっぱり京楓みさきしか勝たん。一緒にいると絶対楽しいし、お互いに変な気遣いをする必要もないし、ずっとイチャイチャしていたいし……なんだろう、この約束された勝利って感じの正妻パワー。もちろんクレア琥珀もすごく可愛いけれど。

 続いて、女性サブキャラの中で特筆すべきは鹿野縁だ。貧弱な体に釣り合わない嗜虐的な顔は見どころだが、セリフの緩急がやたらと激しく、ドゥーム系の囁きと狂気じみた叫びが随所に散見されるなどと、おそらく本作で一番きつい演出を強いられるキャラだろうに、声優さんが完璧に乗りこなせているのはお見事の一言。

 そして男性陣もまた優秀である。まずは主人公、彼の良さはみさきの告白に尽きるので、引用させてもらう。

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本当に健気すぎて泣けるわ。

 次はカラス。関西弁と性格の悪さとが相まって色々とまあ濃いキャラだった。九人のうち七人も京都出身なのにカラス一人しか関西弁を喋らないのはおかしいだろ……というツッコミは置いといて、他のどのキャラクターよりも人間らしい泥臭さを持ち合わせているカラスは大いに物語を盛り上げてくれた。欲を言えば、あんな無念な形で退場させるのではなく、共通の敵である物部氏に立ち向かって欲しかった。

 さらに、脇役の大誠に関しても、最終的に重要なピースを埋めてくれるのみならず、それぞれに山場まで用意されているし、ここまで無駄のないキャラクター配置は中々凄い。

 全編を通して恋愛要素が濃すぎず薄すぎず塩梅が程よいと感じる。特に西院(レア)ルートはそれなりにボリュームがあるので、人によって中だるみもするだろうと思いきや、毎回のごとく完璧なタイミングでクレアと良い雰囲気になるのは、流石としか言いようがない。

 

まとめ

  かわいい、面白い、だれない、良作三拍子に加えて絵も音楽も素敵。あと細かいけど怪談、伝説、和歌等々いかにも京都らしい要素がたくさん詰め込まれている作りだが、いちいち書くと長ったらしいので割愛。一度京都に足を運んで頂けたら、本作をより楽しめるかもしれない。ご都合主義によっぽど厳しい人でなければ高評価は必至。

 

評価

(あくまで個人的な好みを点数化したもので、良し悪しの評価ではない)

・シナリオ&テキスト(28/35点):

   *西院(スタンダード)ルール:8.75/10点

   *嵐山ルート:8.75/10点

   *西院(レア)ルート:8.75/10点

   *龍脈(トゥルー)ルート:1.75/5点

・キャラ(30/35点):

   *東雲 暁(主人公):3.75/4点

   *野々宮 京楓:4/4点

   *鬼無水 みさき:4/4点

   *クレア・コートニー・クレア:3.75/4点

   *琥珀:3.5/4点

   *首藤 大誠:2.25/3点

   *鹿乃 縁:2.5/3点

   *カラス:3/3点

   *榊 黎:2.25/3点

   *クナド:0.75/1.5点

   *物部 総司:0.25/1.5点

・音楽&ボイス:14/15点

・絵&演出:14/15点

・合計:86/100点