寝取られゲー黎明期に生まれた異端児、Lilimさんの「Blueシリーズ」の最新作である『White Blue』。Blueシリーズならではの、ある種の古典的寝取られ(コキュ文学にも通ずる人間性に見られる「滑稽さ」への風刺)のテイストを下敷きにした独自の作風が、今作にも遺憾なく発揮され、Lilimさんの20周年記念作として、Blueシリーズのファンが求めているであろうものが詰まっていると感じる。
以下は長文感想(ネタバレあり)。
久米ルート
ひばりに対する久米の歪んだ愛情を描いたルート。無理心中しようとする久米だが、ひばりのあからさまなウソに容易く動揺を見せてしまい、計画が失敗に終わる。愛する女に騙されていると悟りながらもついに疑うことができなかったこの愚直さは、久米というキャラの醍醐味である。そんな久米が主人公への復讐心ゆえ、生ゴミを漁っては食べる日々を我慢していたと思うとゾッとするだろう。
このセリフ、ちょっとかわいいね。
石神ルート
久米ルートに続く伏線&サービスルート。誰もが知っているであろうエロゲらしい「寝取られ」をそのまま体現したルートでもある。この時点で久米・石神・旭の関係性を見抜いた人も少なからずいるのではないか。
旭ルート
Blueシリーズでおなじみの恋敵に完全敗北するルート。ただし今回の恋敵はイケメンではなく、犯罪集団を束ねるジジイという……色々と突っ込みたいのはわかるけど、結局人間は完璧に理性的な生き物ではないというか、順応性が異常に高いというか、感覚が麻痺したが最後、自分の異常さを弁護するわけだ。
なーにが飼われることで見える景色だ、なーにがお金とか権力とか人間の度量が上回ってただけだ、なんて不平を鳴らしたくなるけど、好意的に捉えるならば、これもある意味アンジェリアなりの僅かながらの優しさなのかもしれない。
「何もかもみーんな上手く収まる」という嘲笑半分の、何の慰めにもならない言葉がクリティカルヒットすぎる。何もかも皆上手く収まるはずがない。でも不幸などん底にいる人間にかける言葉など、「きっと大丈夫だ」以外に何があるのだろうか。そういうところ、やっぱり優しいんだよねアンジェリア。たとえ9割9分のお為ごかしだとしても、1分の真心は残っていると信じたい……いや、信じざるを得ないよ、あんな悲しそうな顔を見たらね。
しかしそう考えると、本当に何もかもがほんの少しだけのすれ違いだけで、切ない気持ちになる。
あの頃になんて戻れないし、戻りたくもない。
(中略)
でも本当なのよ?私、今でもあなたのことばかり考えているの。
私の初恋の人。
あなたは私の全てだったから。
ひばりの最後の独白。一見して馬鹿げているが、言葉に施された大袈裟な修飾を振り解いたら、案外嘘ではないのかもしれない。子供の無邪気な遊びを見て切ない気持ちになる大人たちは、決して子供に戻れば幸せになれるわけではない。ただ遥かなる彼方に消えていくかつての自分の面影を重ねて、嘆くのみ。そうとも、戻ったところで、すっかり童心を忘れた自分たちには到底子供の遊びを楽しめるとは思えない。恋愛も然り。無邪気だった頃の自分の恋にどれだけ懐かしさを感じても、欲まみれの世俗的な思考に慣れきった今頃の自分には到底楽しめないだろうという、ひばりの矛盾した心情が透けて見える一節だと言える。
アンジェリアルート
主人公を独り占めするために負い目を感じさせる作戦に走ってしまうアンジェリアが、石神と協力して一芝居打つことに。嫉妬に狂い、独占欲が暴走したアンジェリアが恐ろしいほど可愛い。
ひばりルート
主人公に全幅の信頼を置くと決めたアンジェリアを陥れることができず、懐柔策を諦め、直々にひばりを拘束しに行く旭。しかしひばりと主人公を捕まえたのはいいものの、ひばりにぞっこんな久米を逃したせいで、犯行が警察にバレてしまう始末。
トゥルーエンドにしては短いが、ぴりっと引き締まった文章が連なる。例えばここでは、悪の限りを尽くした旭の嘆き声が、妙に人間味があると書く。少し前に石神の件についても、少し彼のことがかわいそうに思えてきたという主人公の独白がある。いかなる邪悪なる心の持ち主であろうと、奥底には常に人間的なか弱い一面がある。そして彼らのことを鬼畜だと罵る我々の中でも、同じく人間である彼らの哀れな行く末を目の当たりにしていると、僅かばかりとはいえ惻隠の情を催す。
ひばりに対する度重なるストーカー行為の証拠を突き止められ、退職まで追い込まれるも、最後の最後に想いに殉じて自分を陥れた主人公たちを助ける久米。自分のルートではひばりに冷たく接されただけで気の狂った殺人鬼に変貌するというのに、ここでは大人しく「もう二度と会わない」と主人公に誓う。人間というのは、ネジ一つ外れるだけでいと簡単に狂い出すか弱い生き物である。最初に主人公がひばりを襲おうとしたのも、それに似たような感情に圧倒されたからに違いなかろう。しかし久米と違って、彼はすばやく我を取り戻した。愛と憎悪の間にあるのは、それだけの僅差ではないか。人間は誰しもが猛獣使いで、心の中の猛獣を飼い太らせると果てに自分も魔物になる。そして全編を読み通して辿り着いたこのフィナーレで読者たちはようやく、これはステキな主人公が想い人を守る物語ではなく、恋と色に飢えたケダモノたちのアリーナだと気づく。ああ、これはいつものBlueだなと。
おお、気持ち悪く、情けなく、愚かな男どもよ。どうか救われて、幸せでいてくれ。
まとめ
周年記念作なのにフルプラじゃない!と批判する声が多く見受けられるが、Blueらしさを受け継ぎつつ、限られたテキストの中でキャラの魅力をほぼ最大限に引き出せたところはもっと評価されるべきではないかと個人的に思う一作であった。
評価
(あくまで個人的な好みを点数化したもので、良し悪しの評価ではない)
・シナリオ(30/35点):
*久米ルート:5.75/7点
*石神ルート:5/7点
*旭ルート:6.25/7点
*アンジェリアルート:6.5/7点
*ひばりルート:6.5/7点
・キャラ(27.5/35点):
*清瀬 京太(主人公):3/5点
*植草 ひばり:4.75/6点
*伏見 アンジェリア:6/6点
*久米 憲人:5.75/6点
*石神 裕也:4/6点
*旭 泰平:4/6点
・音楽・ボイス:12.5/15点
・絵:14/15点
・合計:84/100点